第13回 オオヨシゴイ

 長い冬の足音が迫る仏沼湿原、夏鳥たちは次々と南へ南へと去っていきます。彼ら夏の主役たちを紹介するこの連載も、彼らと共に今回で幕を閉じます、ご愛読ありがとうございました。最終回では、仏沼湿原を語る上で欠かせない、今は幻となった伝説の鳥を紹介しましょう。その鳥の名はオオヨシゴイ、体長39cmの小さなサギの仲間です。美しい栗色の背中が特徴的で、さらにメス(写真)には細かな白点模様が散らばっています。湿地に生息し、小魚や昆虫などを捕まえて暮らしているようですが、詳しい研究が行われていないので良く分かっていません。現在、確実な記録のある繁殖地は仏沼湿原のみ、しかも数羽しか生き残っていないほど追いつめられた、絶滅直前の鳥です。元々全国でも限られた場所にしかいない珍しい鳥ではあったようですが、いくつかの繁殖地では昔はごく普通に観察できた、一般的な鳥だったそうです。中でも仏沼湿原は茨城県の浮島湿原と並ぶ有数の繁殖地で、多くのオオヨシゴイが生息していました。その当時をよく知る地元のベテランバードウォッチャーから話を聞くと、今では信じられないようなエピソードが次々と出てきます。毎日必ず姿を見かけたとか、よく道ばたを歩いていたとか。中には、傷ついたオオヨシゴイを拾った、車にオオヨシゴイがぶつかってきた、知らずに巣を跨いでしまった等と、あり得ないような話まで飛び出します。当時どんなにたくさんいたのかが分かる、貴重な情報です。近年、野鳥の中でも一部の夏鳥が顕著に激減しています。宮沢賢治の童話『よだかの星』で有名なヨタカなどが全国各地で姿を消し、このオオヨシゴイはその筆頭に挙げられるほど壊滅的にいなくなりました。この原因は未だ判明していませんが、繁殖地である日本の環境悪化に加えて、近年急速に経済発展を遂げている越冬地の中国南部や東南アジア諸国での、極めて深刻な環境破壊が大きな影響を与えていると考えられています。渡り鳥に国境はありません。毎年季節に合わせて移動を繰り返し、延々と命を繋いできました。彼らの保護は今後私たち人間社会が責任を持って解決すべき、大きな国際問題なのです。(デーリー東北 2008年9月19日掲載)

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