第9回 チュウヒ

チュウヒ

 7月下旬、夏真っ盛りの季節になっても『野鳥の楽園』仏沼湿原では度々霧が発生し、涼しさに包まれます。小鳥達はというと、子育てが一段落して今年生まれの若鳥があちこちで目につきます。尾羽が完全に伸びていないため不恰好で、飛び方もまだまだ下手です。また自力では上手く虫を捕まえられないため、母鳥の後を追いかけて餌をねだっています。今年も新たな命がたくさん育っています。深い霧の中、仏沼湿原の上を滑るように舞う大きな鳥がいます。楽園に君臨する『湿原の王者』チュウヒです。彼らは草原や湿地を住処とする猛禽類で、トビよりも少し小さいスマート体型のタカです。全国各地のヨシ原や水田に住み、多くは冬に大陸から飛来する冬鳥ですが、日本に一年中暮らして繁殖する少数派もいます。この少数派、大陸の多数派とは血統が違うようで、羽根の色などに大きな違いがあります。しかも日本全国でたった50ペアしか繁殖していないと報告され、保護が急務です。仏沼には3-5ペアが毎年繁殖し、彼らにとって大切な繁殖地となっています。彼らの主食は草むらに潜んでいるネズミです。仏沼湿原には目立ちませんが沢山のハタネズミが棲み、草むらの中のあちこちでネズミの巣やトンネルを見つけることができます。チュウヒは翼を浅いV字型に固定し、草むらスレスレをひらひらと舞いながら、じっと地面を見つめています。歩くネズミで揺れる草の動きやネズミがたてるカサカサ音からネズミを見つけると、一度ふわっと上昇した直後、ネズミめがけてすとんと脚から着地します。うまく狩りが成功した場合は、その鋭い爪にネズミが握られているはずです。子育て中、狩りは主に父親の役割のようです。獲物を捕まえると巣まで一直線、空腹のヒナのもとへ運んでいきます。巣のそばには母親が待機していて、父親から獲物を受け取り、ヨシ原の中の巣で待つヒナへ持ち帰ります。この際の受け渡しは見事で、オスが上空から落とした獲物をメスが空中でキャッチする、巧みな曲芸技を披露します。チュウヒのヒナももうすぐ巣立ちの時、新たな王者が仏沼の空へ飛び立つでしょう。
(デーリー東北 2008年7月25日掲載)

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