第6回 コヨシキリ

 6月の仏沼湿原、ヨシや草の新芽が急速に伸び、枯れ草色の世界は深緑色へ一気に衣替えをします。小鳥たちはちょうど子育ての季節、仏沼湿原のあちこちで小さな昆虫やクモなど餌を咥えた親鳥が見られます。彼らは巣で待つ空腹のヒナたちへ懸命に餌を運び、まさに大忙しの毎日です。ヨシ原や草原は、そんな生き物たちの大切な生活の場です。かつては河川や湖沼、水田など水辺周辺のありふれた環境でした。これらは水質の浄化といった自然界の大切な役割を持ち、また萱葺(かやぶき)屋根の材料になるなど、日本人の生活と密着していました。現在では全く省みられなくなった日本の原風景、そこに住む代表的な小鳥であるヨシキリ類について、今回は紹介します。ヨシキリ類は仏沼湿原の主役中の主役オオセッカと同じく、ウグイスの仲間(ウグイス科)に分類されています。この仲間はどれも全身茶褐色や暗緑色の地味な姿でお互いよく似ていますが、その囀りはどれも特徴的です。中でもヨシキリ類は最も複雑な囀りを持つ鳥の1つです。日本には主にコヨシキリとオオヨシキリの2種類のヨシキリ類が生息し、仏沼湿原だけでなく、身近のちょっとしたヨシ原でも普通に観察できます。コヨシキリ(写真)は目の上の黒い眉が特徴的な、りりしい顔つきの小鳥です。仏沼湿原で最も元気がよく、囀りも動きも活発的で一番やかましい鳥でもあります。また仏沼湿原で最も個体数が多く、よく目にする鳥でもあります。彼らの囀りは甲高く、「チュチュチュ、キョキョシキョキョシ、ピリピリピリ」と比較的澄んだ声です。一方、オオヨシキリは特に模様も無い、大変地味な鳥です。唯一の特徴は口の中、夕日のような鮮やか赤色が映えます。囀りは濁音中心の太い声で、「ギョギョギョゲゲギョケケケケケ」や、「ギョギョシギョギョシ」と聞こえます。仏沼ではあまり多くない鳥ですが、その声量で存在感の大きな鳥たちです。
(デーリー東北 2008年6月13日掲載)

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