初夏の仏沼湿原、南から渡ってきた小鳥たちが勢揃い、いっぱいの囀り(さえずり)で賑やかになります。何種類もの歌い手が競い合い、彼らのコーラスは見事なものです。前回紹介したオオセッカには主役の座を譲るものの、仏沼で最も派手な歌い手はコジュリンとオオジュリンです。ここに掲載する写真はコジュリンのオスで、茶色っぽい体に黒い頭をしています。一方、オオジュリンはまるで白いマフラーを巻いているように首の周りが白く、また口元にも白線があるので簡単に区別できます。メスは両種とも全身茶色や白の地味な姿をしています。実はこのオスの黒い頭は春夏の季節限定です。秋冬の間はオスの頭は黒くなく、メスと同じ地味な姿で見分けがつかないほど似ています。このように季節でオスの頭の色が変化する『黒い頭の不思議』について、今回は紹介します。長い間、鳥の最大の特徴は羽毛を持つ事と考えられてきました。空を飛ぶことも確かに鳥の特徴ではありますが、昆虫やコウモリだって空を飛びますし、ペンギンやダチョウのように飛べない鳥もいます。しかし、羽毛を持つ現生の動物は鳥だけです。最近では羽毛を持つ恐竜の化石が発見され、鳥と恐竜は同じ仲間だと考えられています。この羽毛、最低でも年1回は必ず全てが生え換わります。これを換羽(かんう)と呼び、一般には晩夏から秋にかけて、子育てが終わって渡りが始まる合間に行われます。また、早春に繁殖用の派手な色の羽毛に換羽する鳥もいます。その場合、春夏の繁殖期の装いを夏羽、秋冬の地味な装いを冬羽と呼びます。コジュリンやオオジュリンでは、早春にオスの頭が大きく装いを変え、黒い頭の夏羽になります。しかし、この色の変化は普通の換羽とは少し違います。羽毛の交換無く色が変わるのです。秘密は頭の羽毛にあります。冬のオスの頭の羽毛一本を詳しく見てみると、表面は茶色や白ですが、下半分に黒が隠されています。そして早春になると、何故か都合よく羽毛の上半分が切れ落ちて、下半分の黒が現れ、頭が黒くなるのです。自然が巧妙に仕組んだ劇的なイリュージョンと言えるでしょう。
(デーリー東北 2008年5月30日掲載)